ジーンズのリベットとは?実は奥深い、その歴史と役割

冒頭:金属と布が織りなす物語

ジーンズに欠かせない、あの小さな金属部品。何気なく目にしているリベットには、実は150年にわたる歴史と、時代を超えて受け継がれてきた“ものづくり”の想いが込められています。

布と金属−異素材の出会いが生んだのは、単なる補強パーツではなく、「ジーンズとは何か」という本質を語るディテール。リベットは、実用性から象徴性、そして文化性へと、ジーンズの進化を静かに物語ってきました。

このコラムでは、そんなリベットに光をあて、その誕生の背景から、ファッションとしての意味、さらには未来への可能性までを辿っていきます。

ジーンズの原点とデニムの歴史

「デニム」という生地のルーツとその丈夫さ

デニムは、今日では世界中で親しまれているファッション素材のひとつですが、そのルーツは19世紀ヨーロッパにあります。「デニム(Denim)」という言葉の語源は、フランスのニーム地方で作られた「Serge de Nimes(セルジュ・ド・ニーム)」という綾織物に由来しています。綿糸を綾織りにし、縦糸だけをインディゴ染料で染めることで、独特の色落ちや風合いが生まれます。

この丈夫な素材は、やがてアメリカ西部でのゴールドラッシュ時代に作業着として採用され、リベットによる補強を得て“壊れないズボン”へと進化していきました。ジーンズは、耐久性と機能性を備えた究極のワークウェアとして、労働者たちの生活を支えたのです。

しかしその後、デニムはただの作業着にとどまらず、時代ごとの価値観と結びつきながら「ファッションアイテム」へと変化を遂げていきます。そこに欠かせないディテールが、リベットという小さな金属部品でした。

今回のコラムでは、小さな金属、リベットを中心に、その目立たない存在がどのようにジーンズの本質を語るパーツとなったのかを紐解いていきます。

ゴールドラッシュとともに広がったジーンズ文化

19世紀半ば、アメリカ西部を舞台に巻き起こったゴールドラッシュは、人々の価値観やライフスタイルだけでなく、服飾の歴史にも大きな転換点をもたらしました。金鉱を求めて過酷な労働に従事する鉱夫たちには、泥や石、気温差に耐える丈夫な作業着が強く求められていたのです。

そんな時代背景の中で登場したのが、アメリカの実業家リーバイ・ストラウスが供給した、デニム製のワークパンツでした。当初はテント用キャンバスが使われていましたが、のちに綾織りのデニムが採用されることで、柔軟性と耐久性を兼ね備えた衣服へと進化していきます。

ジーンズの歴史は、過酷な労働現場における実用品としての必然から始まり、リベットの発明によってその価値が完成されたといえます。ワークウェアとしての「実用性」と「耐久性」こそが、ジーンズ文化の出発点だったのです。

リベットの誕生とジーンズとの融合

ヤコブ・デイビスとリーバイ・ストラウスの共同発明

1870年代初頭、アメリカ西部で働く労働者たちは、荒れた地形や重労働に耐えうる「壊れにくい衣服」を求めていました。特にズボンのポケット部分は、道具や手を頻繁に出し入れするため破れやすく、その対策が求められていたのです。

そんな中、ネバダ州リノの仕立屋、ヤコブ・デイビスは、ズボンのポケット角に金属製の鋲(=リベット)を打ち込むことで、破損しやすい箇所を補強するという画期的な方法を考案します。

このアイデアは顧客に高く評価され、量産の道を探ることになります。しかし、当時のデイビスには特許取得の資金がなかったため、布地の仕入れ先だったサンフランシスコの商人、リーバイ・ストラウスに協力を依頼。2人は手を組み、1873年5月20日、アメリカ合衆国特許第139121号を共同で取得しました。

この特許により、「リベット付きの作業用ズボン」は正式に登録され、ジーンズの原型が誕生します。製品は“XX”という名称で発売され、のちに「ジーンズ」という名前とともに世界中に広がっていきました。

デイビスの実用的な発明と、ストラウスの事業展開力の融合は、ジーンズの歴史において極めて重要な転機となったのです。

ポケットを守る鋲:リベットが生んだ“壊れないジーンズ”

ヤコブ・デイビスによるこの工夫は、まさに「"壊れないジーンズ”を実現した技術革新」でした。当時の作業着としてのズボンが抱えていた耐久性の課題を、シンプルながらも効果的に解決したのです。

こうして誕生したリベット付きジーンズは、鉱夫や鉄道労働者など、過酷な環境で働く人々に圧倒的な支持を得て広まっていきました。やがてリーバイ・ストラウスと共にその製品が量産されるようになると、リベットはジーンズの機能美として定着し、今日まで引き継がれていきます。

一見すると小さな金属部品にすぎないリベット。しかし、それはジーンズという衣服の根幹を支える不可欠な技術的ディテールであり、作業着としての信頼性を決定づける“鍵”だったのです。

リベットがジーンズを定義づける要素になるまで

もともと補強のためのパーツにすぎなかったリベットは、やがてジーンズの「顔」ともいえる存在へと進化していきました。その変化の背景には、単なる機能性だけでなく、“らしさ”を形づくるデザイン要素としての価値がありました。

リーバイスの銅色のリベットは、その独自性を視覚的に訴える象徴であり、ブランドの個性を際立たせるディテールとなりました。Leeはより丸みを帯びたドーム状のリベットを用い、Wranglerはロゴ刻印入りのリベットで差別化を図るなど、各ブランドが「リベット=アイデンティティ」として競い合う時代が到来します。

こうしてリベットは、ジーンズのパーツであると同時に、「ジーンズであることを保証するサイン」のような役割を担うようになっていきました。

1960〜70年代には、ジーンズがファッションアイテムやカウンターカルチャーの象徴として市民権を得る中で、リベットは「無骨さ」「リアルさ」「クラフト感」を語る視覚的要素として重要視されます。

つまり、リベットは単なる“金属の鋲”から、ジーンズの本質そのものを伝える象徴的存在へと変貌したのです。

現在でも多くのジーンズにリベットが付けられているのは、強度のためというよりむしろ、「これがジーンズである」というアイコン的意味合いを保持するため。ユーザーにとっての“見慣れた安心感”でもあり、ブランドにとっての“伝統の継承”でもあるのです。

ファッションとしてのデニムとリベット

ワークウェアを超えて:ジーンズがストリートに登場した時代

ジーンズが誕生した当初、その役割は明確でした。作業中の体を守り、長く使えるためのワークウェア。しかし20世紀半ばになると、その立ち位置は徐々に変わり始めます。

きっかけは、ハリウッド映画に登場するジーンズ姿の若者たち。1950年代の若者向けの映画で見せた姿は、ジーンズ=反骨と自由の象徴という新たなイメージを社会に印象づけました。

こうして「労働着」でしかなかったジーンズは、次第に若者たちの間でストリートファッションの定番として定着していきます。スーツを脱ぎ捨てた世代が、あえて“粗野で無骨な”ジーンズを身に着けることは、体制への違和感や自己表現の手段でもあったのです。

“何かを主張する服”へと進化していったジーンズ。その表現力に影響を与えたのが、リベットです。ポケットの角やベルトループに打ち込まれた金属の鋲は、「ただの服ではない」という存在感を放ちます。

無機質で工業的なその輝きは、ワークウェアとしての過去を思わせると同時に、ジーンズをファッションアイテムとして一段引き上げました。ブランドごとに形状や材質に違いがあるリベットは、街中での個性の差異を表現するパーツとしても受け入れられていきます。

このようにして、リベットは「補強具」から「スタイルの一部」へと変化し、デニムとともにファッションの言語としての力を手に入れたのです。

リベットが持つ無骨さと美学:ハイファッションに取り込まれるまで

リベットは、本来“補強”のために生まれた部品です。しかしその機能美に宿る無骨さや工業的な質感は、時代が進むにつれ、ハイファッションの文脈でも強い魅力を放つようになります。

1980年代〜90年代にかけて、ジーンズは再びファッションの舞台で存在感を増し、既存のスタイルに変革をもたらすアイテムとして受け入れられました。中でも注目されたのが、リベットの持つ「本物感」でした。デニムのラフな素材に加え、打ち込まれた金属の冷たさや光沢が、計算された美しさではなくありのままの自然な魅力として認識され始めたのです。

さらに2000年代に入ると、ハイブランドのジーンズラインでは、本来目立たないように使われるリベットを、あえて見せるために使われたり、大きくて目立つ金属ボタンのようなものをデザインアクセントとして取り入れたりしてきました。リベットは単なる補強材ではなく、「武骨さ=洗練された選択肢」という逆説的な価値として認識されるようになったのです。

このようにリベットは、ジーンズの“機能的な要”であると同時に、ファッションの中で「剥き出しの強さ」「素材のリアリティ」「匿名性の中の個性」といったこだわりの表現として、独自の役割を担うようになりました。

リベットがハイファッションに取り込まれたことで、ジーンズはより深い表現領域を手に入れ、伝統と革新、日常と非日常を行き来するユニフォームとしての地位を確立しました。

ジャンルごとの文脈の中で意味を変えながら存在し続けているリベットは、あるときはスタイルの象徴として、あるときは非構築的リアルさの演出として、またあるときは構造性の可視化として。その柔軟性こそが、ジーンズとリベットがファッションの中で生き延びてきた理由なのかもしれません。

リベットとジーンズのこれから

日本のクラフトジーンズに見る、丁寧なリベット仕事

「Made in Japanのジーンズ」と聞いて、多くのファンが思い浮かべるのは、岡山県・児島を中心とした高品質なクラフトデニムの存在です。生地から縫製、仕上げまで一貫して行うこの地域のジーンズは、量産品とはひと味違う、“職人技が息づく仕上がり”が魅力です。その中でも、リベットは特に注目すべきディテールです。

日本のジーンズ工房では、リベットの打ち込み位置、素材、形状、打ち込み圧までが細かく調整され、ただ「打ち込む」ではなく「仕立てる」ように扱われています。ブランドによっては、経年変化が美しく現れるように、銅製や鉄製リベットをわざと無塗装のまま使用するケースもあります。また、表に出る側と裏面のキャップの形や刻印にもこだわりが見られます。

日本のクラフトジーンズは、リベットという一見目立たないパーツにも丁寧な思想と審美眼を込めており、それが製品全体の品格へとつながっています。リベットはただの金属片ではなく、ジーンズそのものに込められた精神やストーリーの“象徴”なのです。

ベティスミスの実践に学ぶ、文化としてのリベットとデニム

私たちベティスミスは、国産ジーンズ草創期に岡山県倉敷市・児島で日本初の女性向けジーンズブランドとして生まれ、ジーンズの楽しみ方をあらゆる角度で提案するブランドです。ジーンズを「履く人の人生に寄り添う存在」として捉え、一本一本に想いを込めてつくっています。

デニムに込めるこだわりはもちろんのこと、私たちはリベットという小さな金属パーツにも、さりげなく「らしさ」を感じられることを大切にしています。デニムワークスシリーズでは、ヴィンテージにも使用されるコッパー色の打ち抜きリベットを採用。錆びにくい素材を使用しているのは、ディテールの良さを楽しみつつ、プロダクトとしての使いやすさも大切にしているからです。

また、私たちはリベットを使って「ジーンズをつくる」体験そのものを提供しています。児島のジーンズ作り体験工場では、マットな質感の金属や、真鍮色、ヴィヴィッドなカラーなど、訪れた方々が自らの手でパーツを選び、ジーンズに関わることができる場を設けています。そこには、“自分だけの一本を仕上げる”という実感と、リベットが持つ記憶のような意味が生まれると信じています。

私たちのものづくりは、顔の見える製品づくりであり、地域の手仕事を受け継ぐ営みでもあります。大量生産では表現できない細部のこだわりや、一本一本に宿る手の温度や時間の重み。それを象徴する存在として、リベットは静かに語りかけてくれます。

ベティスミスでは、ジーンズもリベットも「生活文化」の一部としてとらえています。流行ではなく、長く愛される一本を届けたい。そのために、これからも私たちは、変わらない手の仕事を大切にしながら、未来のものづくりに誠実に向き合っていきます。

CHECKED ITEMS

  • 17,000円(税込18,700円)
  • 4,900円(税込5,390円)
  • 12,000円(税込13,200円)
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  • 3,900円(税込4,290円)

ABOUT

Betty Smith co.,ltd.
国産ジーンズ発祥の地、児島。弊社Betty Smithは国内初のレディースジーンズのメーカーとして1962年にこの地で誕生しました。Betty Smithでは、“日本のジーンズ文化の創造”を企業のミッションと定め、次の半世紀も積極的に新しい価値観を創出していきたいと考えています。

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